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No.
78

経済産業省によるベンチャーエコシステムの活性化の提言

1. はじめに ~「ベンチャー投資等に係る制度検討会」の報告書の公表

経済産業省(経産省)は、2015年5月13日に委託調査事業である「ベンチャー投資等に係る制度検討会」の報告書を公表した1)経済産業省委託調査事業における「ベンチャー投資等に係る制度検討会」の報告書の公表http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/ventureinvest/investigation.html 2015年8月31日閲覧 。
本報告書は、経産省の委託調査事業(平成26年度ベンチャー投資等に係る種類株式・のれん等に関する調査)として設置された有識者からなる「ベンチャー投資等に係る制度検討会」(以下、「研究会」という。)の成果が取りまとめられたものである。
この研究会は、PLUTUS+ MEMBER’S REPORT No.63「アベノミクスとベンチャー企業の種類株式」(March 31, 2015)で紹介したように、平成26年6月24日に、アベノミクスの第三の矢としての「日本再興戦略」の改訂版として、閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014 -未来への挑戦-」の「緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)」に追加された「ベンチャー支援」の施策としてあげられた「種類株式活用促進策の検討」を実施するために設置されたものである。
本報告書は、シュンペーターの理論の中心概念であるイノベーションによる経済成長を狙う第三の矢としての新事業創造のために、 “ベンチャー投資プロジェクト”を取り上げ、大規模な資金調達の実現、起業家等のインセンティブの確保、優秀な人材の獲得、投資家のリスク管理やガバナンスの確保等を可能にする「ベンチャーファイナンス」の進化を図っていくことの必要性を強調し、副題を「ベンチャーファイナンスの進化によるベンチャーエコシステムの活性化に向けて」としている。
本稿では、経産省が提言する「ベンチャーエコシステム」の意義を考察してみたい。

2. ベンチャーエコシステムとベンチャーファイナンス

本報告書は、「起業、リスクマネーの供給、成長、上場・M&A、廃業、再チャレンジなどのサイクルの好循環が自律的・発展的に回る2)ベンチャー投資等に係る制度検討会 報告書 (別冊:報告書概要)5頁http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/ventureinvest/houkokusyo2.pdf 2015年8月31日閲覧 」システムを「ベンチャーエコシステム」としている。「起業、リスクマネーの供給、成長、上場・M&A、廃業、再チャレンジなどのサイクル」は、シュンペーターが提唱した創造的破壊そのものであり、新たな効率的な方法が生み出されれば、それと同時に古い非効率的な方法は駆逐されていくという、一連の新陳代謝を促すことである。
この「ベンチャーエコシステム」を活性化するのが、「起業家と投資家等による新しい価値の創造プロジェクトと捉えることができる“ベンチャー投資プロジェクト”3)前掲脚注2参照 」であり、“ベンチャー投資プロジェクト”は、「大規模な資金調達の実現、起業家等のインセンティブの確保や、 優秀な人材の獲得、投資家のリスク管理やガバナンスの確保等を可能にする『ベンチャーファイナンス』の進化を図っていくことが、重要である。4)同上 」としている。
ベンチャー企業の使命は、新しい事業を成長させることにあり、そのための必要資金を調達することが重要である。この資金を供給するのが投資家であり、起業家と投資家等による「新しい価値の創造プロジェクト」である“ベンチャー投資プロジェクト”を成功させるための施策を提言することが、本報告書のねらいである。
そして、本報告書が提言する施策がベンチャーファイナンスであり、ベンチャーファイナンスは、

  • 大規模な資金調達の実現
  • 起業家等のインセンティブの確保
  • 優秀な人材の獲得
  • 投資家のリスク管理やガバナンスの確保

等を可能にするものと捉えている。
企業に必要な経営資源は、「人・モノ・金・情報(技術やノウハウ)」と一般的に言われるが、「大規模な資金調達の実現」は、「金」の確保であり、「起業家等のインセンティブの確保」と「優秀な人材の獲得」は、「人」の確保である。
「人」と「金」という経営資源を確保したうえで、「モノ」と「情報」といった経営資源を調達し事業を成長させるのが、ベンチャー企業の使命であり、経営そのものである。その経営プロセスの要諦が「投資家のリスク管理やガバナンスの確保」である。
「投資家のリスク管理やガバナンスの確保」の方向性を示したのが、「日本版スチュワードシップ・コード」(金融庁、2014 年 2 月公表)及び「コーポ レートガバナンス・コード原案」(金融庁と東京証券取引所を共同事務局とするコーポ レートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議、2015 年 3 月公表)である5)PLUTUS MEMBER’S REPORT No.62「コーポレートガバナンス・コードとインセンティブ・プラン」(February 27,2015) https://www.plutuscon.jp/upload/report/20150227_74/20150227_74_plutus_report.pdf2015年8月31日閲覧 。

3. 本報告書が焦点を当てた重要課題

本報告書では、ベンチャーエコシステムの活性化のための重要課題のうち、主に

  • 「リスクマネーが少ない」
  • 「起業家・マネジメント人材等の不足」

に絞り、「種類株式及びストックオプションの活用促進」に焦点を当てている。

すなわち、起業家と投資家それぞれの権利・リスク等を調整する手段としての「種類株式」と、創業から早い段階で優秀な人材を惹きつける手段としての「ストック・オプション」の活用に焦点を置いている。
訴求点は、ベンチャー・キャピタル(VC)による投資以降のステージにおいても、有能な人材を確保することがベンチャー企業成長のための最重要課題とするものであり、そのためには、VCからの資金調達以後においても、VCが引受けた株式の取得価格よりも低い普通株式価値を前提にしたストック・オプションの発行によるインセンティブプランを可能にして有能な人材を確保することにある。
上記の課題を解決するのが、「みなし清算条項付種類株式」である。この提言は、PLUTUS+ MEMBER’S REPORT No.63「アベノミクスとベンチャー企業の種類株式」(March 31, 2015)で解説したものとほぼ同様であり、PLUTUS+ MEMBER’S REPORT No.63の該当箇所を以下に再掲する。

PLUTUS+ MEMBER’S REPORT No.60より

2. 経産省による「みなし清算条項付種類株式」の啓蒙活動

経産省は、平成23年11月に「未上場企業が発行する種類株式に関する報告書」(未上場企業が発行する種類株式に関する研究会)を公表している。ここでは、冒頭に「種類株式を利用することにより、投資家は投資リスクをコントロールでき、創業者は持分株式の希薄化を抑えながら必要資金を調達することができるなど、お互いの権利を尊重しつつwin-winの関係で資本形成を行っていくことが可能となる。」と説明しており、投資家と創業者(起業家)の両者にメリットがあるwin-winの関係を構築するために、種類株式の活用が有効であるとの主張をしている。
経産省は、ベンチャー・キャピタル(VC)による投資以降のステージにおいても、有能な人材を確保することがベンチャー企業成長のための最重要課題であると考えている。そのためには、VCからの資金調達以後においても、VCが引受けた株式の取得価格よりも低い普通株式価値を前提にしたストック・オプションの発行によるインセンティブプランを可能にして有能な人材を確保することが必要と考えている。
これを実現するスキームこそ、種類株式を活用したVC投資である。具体的には、「みなし清算条項」と「普通株式への転換条項」の2つの条項を設定した種類株式の活用を想定している。

2. 1「みなし清算条項」の意義

「みなし清算条項」とは、合併等の組織再編や実質的な全ての事業譲渡を清算と同様なものとして取扱い、組織再編等の事由に伴って株主に分配される財産のうち、優先株主に対して一定の額を優先的に分配されることを規定した条項である。米国のベンチャー投資は、キャピタルゲインを得るための株式売却(エグジット)において、IPOに加えてM&Aによるエグジットが多く、M&Aによるエグジットは、売却先の会社が合併等の組織再編により取得することが多い。そのため、VCが引受けた株式の取得価格よりも低い価格で株式を取得している創業者(起業家)が、VCに損失をもたらす条件で、合併等によるキャピタルゲインを得ようとする可能性があるのである。これを回避するのが、「みなし清算条項」であり、M&Aによるエグジットが起きた場合にVCは、創業者(起業家)が保有する普通株式よりも有利な水準でエグジットできる条件を規定した「みなし清算条項」の適用により、キャピタルゲインを得ることができる。

2. 2「普通株式への転換条項」を設定する理由

VC投資により、投資金額の数十倍のキャピタルゲインが得られることは珍しくない。「みなし清算条項」の適用によりVCが得られるキャピタルゲインは、常識的には投資金額の数倍以内であり、投資金額の数十倍のキャピタルゲインを狙うには、アップサイドを狙うことができる普通株式に転換することが必要である。したがって、「みなし清算条項」を付した種類株式には、「普通株式への転換条項」も付していなければ、VC投資において想定する投資金額の数十倍のキャピタルゲインの可能性が排除されることになる。
このようなことから、VC投資においては、「みなし清算条項」と「普通株式への転換条項」の2つの条項を設定した種類株式を活用すべきであり、米国のVC投資における種類株式の雛形は、そのようになっている。

2. 3 ベンチャー企業にとっての「みなし清算条項付種類株式」のメリット

VCから種類株式の引受けにより資金調達したベンチャー企業は、新たに普通株式を対象とするストック・オプションを発行する場合、普通株式の価格が、当該種類株式の価格よりも低いものと主張できるロジックがあれば、付与対象者である経営陣や従業員等は、VCが投資した1株当り価格よりも低い普通株式の価格を前提としたストック・オプションを取得することが可能となり、キャピタルゲインの期待が高まることから、インセンティブ効果が大きくなり、有能な人材を確保することができる。
ベンチャー企業は、イノベーションのために研究開発投資を優先的に行う必要があるため、事業基盤が確立された大手上場企業と同程度の現金報酬を支払うことは困難であり、インセンティブ効果の高いストック・オプションを付与することが可能かどうか次第で、有能な人材を確保できる可能性が変わってくる。有能な人材を確保できない場合には、ベンチャー企業によるイノベーションは失敗することに繋がるため、インセンティブ効果の高いストック・オプションの付与は、ベンチャー企業にとって死活問題でもある。
種類株式には、設定できる様々な条件がある。しかし、ベンチャー企業のあらゆる場面において、種類株式と普通株式との価格差を説明することができるロジックを構成することができるのは、「みなし清算条項」が設定された種類株式のみと言っても過言ではない。それ故に、経産省は、「みなし清算条項付種類株式」が普及するための啓蒙活動に注力しているのである。

 

4. 最後に

ベンチャー企業は、成長ステージ毎の課題に対応する組織体制を作ることで発展する。成長ステージに応じて必要な人材も変化するため、絶えず、有能な人材の確保が課題であり、インセンティブプランは、成長する過程において必須である。
弊社では、上記の問題意識にたって、創業以来、ストック・オプションのコンサルティングに取り組んできた。有償ストック・オプションの発展スキームである、有償ストック・オプション信託 といった新スキームを開発する等、ベンチャーエコシステムの発展に資することを目標に展開している。
これらを検討されている方々は、弊社にご相談いただければ幸いである。

以上

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References   [ + ]

1. 経済産業省委託調査事業における「ベンチャー投資等に係る制度検討会」の報告書の公表http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/ventureinvest/investigation.html 2015年8月31日閲覧
2. ベンチャー投資等に係る制度検討会 報告書 (別冊:報告書概要)5頁http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/ventureinvest/houkokusyo2.pdf 2015年8月31日閲覧
3. 前掲脚注2参照
4. 同上
5. PLUTUS MEMBER’S REPORT No.62「コーポレートガバナンス・コードとインセンティブ・プラン」(February 27,2015) https://www.plutuscon.jp/upload/report/20150227_74/20150227_74_plutus_report.pdf2015年8月31日閲覧

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